原酒の世界

原酒の世界

第四章:原酒の矜持

第四章:原酒の矜持

酒造の黎明期

日本酒は、その原料となる米の品種、米が育った土壌と気候、栽培方法、麹、仕込み水、製造方法などが相まってその個性が生まれる。 発酵という自然の力を借り、その力を巧みに操る杜氏や蔵人の技も、その個性に映し出される。
そして、発酵工程の最終段階にある醪(もろみ)を搾ったまま、何も加えず、何の調整も行わない原酒は、素材の持ち味と醸す技が清酒よりはるかに鮮明に反映される。

それぞれの日本酒の個性をそのまま味わうのなら、原酒に限る。

それ故に、日本酒を原酒のままで出荷する蔵元は、酒米、麹、仕込み水を徹底的に吟味し、醸す技を追求し、個性あふれる原酒を生み出している。

酒米

酒米

稲穂

酒米は食用にする一般的な米と違い、その粒がかなり大きい。酒米は一般的な米より精米歩合が高く、米の表面をより多く削れるだけの大きさが必要だからだ。
米粒を光に透かして見ると、その中心部に白い部分がある。これは「心白」と呼ばれる部分で、周囲の半透明な部分に比べ雑味の元になるたんぱく質の含有量が少なく、粘度が高いため磨いても砕けにくい。酒米は米粒の中でこの心白が占める割合が一般的な米より大きいのである。この大粒で心白が占める割合が大きい酒米ができたことで、精米歩合が五割以上にもなる大吟醸酒などを造ることが可能になったのである。

さらに酒米には、麹への造りやすさ蒸したときの吸水率の高さなど、一般的な米にはない特徴がある。ちなみに、心白が大きい酒米を炊いて食べると、ぼそぼそして美味しくはない。

代表的な酒米には、山田錦、五百万石、美山錦、雄町などがあるが、こうした著名な酒米以外にも日本各地の気候・風土に合った多種多様な酒米が栽培され、現在も日本各地で酒米の品種改良が盛んに行われている。

最高の原酒になる酒米を求めて
最高の原酒になる酒米を求めて

素材の持ち味がそのまま風味に映し出される原酒だけに、原酒を提供している蔵元の酒米へのこだわりはひと際強い。最高の酒米といわれる山田錦の中でも兵庫県の一部の特A地区で作られた最高級品を使用することがあれば、それぞれの酒蔵がある地域で新たに品種改良された新種の酒米を使用することもある。自らの酒造りに適した酒米を日本全国から探すという酒蔵もある。

麹(こうじ)

麹(こうじ)

麹

麹とは、日本酒をはじめ、味噌、醤油、酢などの発酵食品を造るために微生物を発酵させたものである。日本酒に使われる麹は主に「黄麹菌」で、これを酒米に加えて繁殖させた「米麹」で酒造りが行われる。
そもそも酒というものは、酵母が糖を分解することによって生じる「アルコール発酵」によって造られるわけだが、日本酒造りではこのアルコール発酵の前段階として、米に含まれているデンプンを糖に変える必要がある。この役割を果たしているのが麹なのである。

酒造りでは麹を酒米に加えて麹菌を繁殖させた米麹を使うわけだが、このとき、植物が地中に根を生やすように、麹菌が米の中に菌糸を伸ばしていくように繁殖する。この菌糸を米の中へ伸ばしていく状態を「破精込み・はぜこみ」といい、この破精込みの仕方によって日本酒の風味が違ってくるのである。

それぞれの蔵元では、この破精込みをコントロールすることで、思い描いた通りの風味を実現しているのである。破精込みには様々なタイプがあるが、ここでは代表的な2つの破精込みを確認しておきたい。

突破精型
突破精型

菌糸が蒸米の表面全体を覆うことなく、菌糸が伸びた部分とそうでない部分が明確に分かれ、菌糸が蒸米の内部にしっかりと伸びているのが突破精型である。
適度なたんぱく質分解力を持つ米麹になり、端麗な日本酒に仕上がる。

総破精型
総破精型

菌糸が蒸米の表面全体を覆い、菌糸が蒸米の内部にしっかりと伸びているのが総破精型である。
糖化力、たんぱく質分解力が強く、旨味のある濃醇でどっしりとした日本酒に仕上がる。

仕込み水

仕込み水

水源

酒造りに使われる水を「仕込み水」というが、どの蔵元も酒造りに適した水を求めて、あるいは酒造りに適した水があったから、その土地で蔵を開いている。それほどに重要な仕込み水は、普通に飲まれている水と何が違うのか。水に含まれる成分によって様々な違いがあるが、日本酒造りで特に重視されてきたのが、仕込みに使う水の「硬度」、水の硬さである。
硬度とは、水に含まれているカルシウムやマグネシウムの量を表したもので、硬度が低い水を「軟水」、硬度が高い水を「硬水」と呼び、日本酒造りでは硬水を使用することが一般的であった。その理由は、品質管理が十分ではなかった時代に、雑菌が繁殖して酒が腐ってしまうことが頻繁に起きていたことにある。その中にあって、硬度の高い水で仕込まれた日本酒は腐敗が起こりにくかった。また、硬水は酵母の栄養となるミネラルが豊富に含まれているとともに、酒造りの害となる鉄分が少ないことから酒造りに適した水とされてきたのである。
しかし、十分な品質管理を行うようになった現代は、軟水でも問題なく日本酒を造ることができるようになり、どのような日本酒を造るのかによって、軟水と硬水を使い分けている。軟水を使うと低温でじっくりと発酵を進めることができ、口当たりがなめらかで香り高い吟醸酒を造ることができる。硬水を使うと、キリッとした芯のある辛口な日本酒を造ることができる。

仕込みに使う水の硬度と含まれている成分は、日本酒の風味に大きな影響を与えるため、日本各地の酒処には必ず銘水があると言われている。日本の代表的な酒処の水とその仕込み水で造られた日本酒の特徴を見てみよう。

灘 兵庫県
灘 兵庫県

日本を代表する酒処である灘の水は、江戸時代以前から酒を腐らせない水として知られ、「宮水」と呼ばれてきた。その硬度は8~9で日本酒造りに使用される水の中で最も高度の高い水である。そのため灘の酒は「男酒」と呼ばれるような辛口の日本酒が多い。

伏見 京都府
伏見 京都府

灘と同じく酒処として名高い伏見の仕込み水の硬度は、灘より若干低めの6〜7である。このわずかな硬度の違いで、日本酒としての性格は大きく変わり、灘の「男酒」に対して、伏見の日本酒は「女酒」と呼ばれ、柔らかい味わいの優雅な日本酒が多い。

魚沼、長岡など 新潟県
魚沼、長岡など 新潟県

新潟の日本酒といえば「淡麗」として知られている。その仕込み水の硬度はかなり低い3前後で、この低い硬度がまるで水のようにスッキリとして吟醸酒を生み出している。

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